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面接で見極めるべきポイント:日本語力(JLPT)×技術スキルの評価設計

2025年10月15日 公開
外国人エンジニアの採用で、最も多い失敗のひとつが「面接での見誤り」です。
日本語が上手だから安心と思ったら、実務では指示が通じない。
逆に、言葉がたどたどしいからと見送った人が、実は即戦力レベルだった——。
こうしたミスマッチは、「日本語力」と「技術スキル」を別々に評価してしまうことが原因です。
本記事では、両者を掛け合わせて“実務に通じる総合評価”を設計する方法を紹介します。
面接を“感覚”ではなく“設計”で行うための実践的なポイントを、人事と現場の両視点から理解していきましょう。
目次
なぜ「日本語力」と「技術スキル」の両輪が重要なのか

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- 面接での“見誤り”が起きやすい理由
- 「日本語力が高い=即戦力」とは限らない
- 「技術スキルが高い=活躍できる」とも限らない
- 採用後の定着率を高めるための“総合評価”という考え方
外国人エンジニアの採用では、「技術が高い」「日本語が上手い」といった単一の評価だけでは、入社後のミスマッチが生じやすい傾向があります。
真に活躍する人材を見極めるには、日本語運用力と技術スキルの両面をバランスよく評価する仕組みが欠かせません。
この章では、その重要性と具体的な見極め方について説明していきます。
面接での“見誤り”が起きやすい理由
外国人エンジニアの面接では、「思っていた人と違った」というギャップが起きやすいものです。
その多くは、評価の軸が片寄っていることが原因です。
たとえば、流暢な日本語で話せる応募者は、つい「理解力も高そう」と感じてしまいがちです。
逆に、発音が不自然だと「即戦力にはならなそう」と判断してしまうケースも少なくありません。
しかし、面接での会話は限られた状況下での“言葉のやり取り”にすぎません。
本質的に見るべきは、「伝わる力」×「実務を進める力」です。
つまり、言葉そのものではなく、
「相手の意図を汲み取れるか」
「技術的な問題をどのように説明できるか」
という“運用力”こそ、採用後の活躍を左右します。
「日本語力が高い=即戦力」とは限らない
日本語能力試験(JLPT)でN1を取得していても、実務でスムーズにやり取りできるとは限りません。
なぜなら、JLPTは主に「文法理解」や「読解力」を測る試験であり、実際の業務会話力やチーム内での協調的コミュニケーションまではカバーしていないからです。
たとえば、仕様変更やスケジュール調整など、「状況の変化を即座に理解して対応する力」が求められる場面では、試験のスコアよりも相手の言葉の“意図”を読み取る力が重要になります。
つまり、面接では「JLPTのレベル」ではなく、「日本語を使って仕事を進められるか」という実践的な視点で見る必要があります。
「技術スキルが高い=活躍できる」とも限らない
一方で、技術スキルが高くても、チームで成果を出せないケースも多くあります。
特に日本の開発現場では、仕様変更や曖昧な指示への柔軟な対応力、他部署との調整力など、技術以外の要素が成果に大きく影響します。
たとえば、優秀なプログラマーであっても、報連相が不足するとタスクの遅延や誤解が生じます。
このように、「技術力」だけで採用を決めると、チーム全体の生産性に影響するリスクがあります。
したがって、評価の際は“技術をどう活かすか”まで見極めることが大切です。
採用後の定着率を高めるための“総合評価”という考え方
採用のゴールは「採ること」ではなく、「活躍・定着してもらうこと」。
そのためには、日本語力と技術スキルを別々に見るのではなく、掛け合わせて評価する視点が欠かせません。
具体的には、
- 「技術を説明する際の日本語の使い方」
- 「質問への返答時の思考の整理力」
- 「課題の理解と確認の仕方」
といった“行動面”を評価することで、単なるスコアやテストでは分からない「実務対応力」を見抜くことができます。
この総合評価の仕組みを整えることで、採用後のギャップを最小化し、外国人エンジニアが長期的に定着・活躍できるようになります。
日本語力を正しく見極めるための基礎知識

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- JLPTレベルの意味と現場での目安(N1〜N5)
- JLPTでは測れない「実務コミュニケーション力」
- 面接で確認すべき3つの観点(理解・発話・応答)
- 実際の会話例から見る評価ポイント
外国人エンジニアの採用において、「日本語力の見極め」は最も判断が難しい項目です。
試験スコアや資格だけでは、実際の業務で通用する日本語力を正確に測ることはできません。
大切なのは、“日本語で仕事を進める力”をどのように評価するかという視点です。
この章では、日本語力を正しく見極めるための基礎知識と面接時の具体的な確認ポイントについて説明していきます。
JLPTレベルの意味と現場での目安(N1〜N5)
外国人エンジニアの日本語力を測る指標として、最も広く知られているのが日本語能力試験(JLPT)です。
ただし、このスコアを「どのレベルなら採用OK」と一概に判断するのは危険です。
たとえば、N1は「ビジネス文書を理解できる」レベル、N2は「日常的な会話が問題ない」レベルとされています。
しかし、現場で求められるのは
「報告・相談がスムーズにできること」
「仕様の変更を理解できること」
など、実務での“瞬時の理解力”です。
つまり、N1でも会話が苦手な人もいれば、N3でも会話力が高い人もいます。
重要なのは、JLPTを“参考情報”として活用すること。
スコアだけで判断せず、「業務内容に必要な日本語レベル」を社内で定義しておくことが、ミスマッチ防止につながります。
JLPTでは測れない「実務コミュニケーション力」
JLPTは主に文法・読解・聴解を問う試験です。
一方で、現場で必要なのは「日本語を使って仕事を前に進める力」。
つまり、試験で測れる“知識”と、仕事で使える“運用力”はまったく別ものです。
たとえば、上司から「この件、少し調整お願い」と言われたとき。
単語としては理解できても、“どの程度”“いつまでに”調整すればいいかを読み取れないと、指示が正しく実行できません。
こうした齟齬は、JLPTでは見えにくい「ニュアンスの理解」や「確認の習慣」に起因します。
そのため、面接ではJLPTスコアよりも、“会話のキャッチボールが成立しているか”を見る方が実務的です。
面接で確認すべき3つの観点(理解・発話・応答)
面接で日本語力を評価する際は、以下の3観点で整理しましょう。
- 理解力:質問の意図を正しく掴めているか
→「質問を言い換えて確認する」「要点を整理して返す」などの反応をチェックします。 - 発話力:自分の考えを日本語で整理して伝えられるか
→短く区切って説明できる人は、実務上も伝達がスムーズです。 - 応答力:予想外の質問にも自然に答えられるか
→スクリプトではなく、その場で考えながら返せるかが重要です。
この3つを総合的に見ることで、“JLPTの点数では見えない会話力”が浮き彫りになります。
実際の会話例から見る評価ポイント
たとえば、以下のようなやり取りを想定してみましょう。
面接官:「最近どんな技術に興味がありますか?」
応募者:「私はReactとTypeScriptの開発をしています。チームではコードレビューを担当しています。」
この回答から分かるのは、単なる単語力ではなく、自分の業務を日本語で説明する力です。
さらに、「どんな課題がありましたか?」と聞いた際に、
「レビューで他のメンバーの意図を理解するのが難しかったです。でもチャットで確認するようにして、少しずつ良くなりました。」
と答えられるなら、相手の言葉を受け取り、対応策を日本語で表現できている証拠です。
こうしたやり取りの中で、
- 文章構成(主語・述語の明確さ)
- 会話テンポ(間の取り方や自然さ)
- 誤解が起きた際のリカバリー(確認・言い換えの姿勢)
を観察することで、書面やスコアには表れない「実務日本語力」を正確に評価できます。
日本語力×技術スキルの評価バランスをどう取るか

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- 優先順位は「業務内容×チーム構成」で変わる
- 「通訳・翻訳サポートがある場合」と「無い場合」
- 配属後を見据えた“伸びしろ評価”の考え方
- バランスを可視化する「評価シート」活用例
外国人エンジニアの採用では、「日本語力」と「技術スキル」をどの程度重視するかという判断が、採用の成否を大きく左右します。
業務内容やチーム構成、さらには社内のサポート体制によって、評価バランスの最適解は異なります。
この章では、自社に合った評価の優先順位をどう設計し、どのように見える化していくかについて説明していきます。
優先順位は「業務内容×チーム構成」で変わる
採用の目的は「最も優秀な人を採ること」ではなく、「自社で活躍できる人を採ること」です。
そのため、日本語力と技術スキルのどちらを重視すべきかは、業務内容やチーム構成によって変わります。
たとえば、仕様書が日本語で書かれ、顧客対応も発生する場合は、当然ながら日本語力を重視すべきです。
一方で、英語ドキュメントが中心で、社内に英語話者が多い環境であれば、技術スキルの比重を高めても問題ありません。
重要なのは、「どの段階で、誰と、どんな言語でやり取りする仕事なのか」を明確にすること。
その上で、「最低限必要な日本語力」と「必須となる技術スキル」のラインを言語化しておくと、採用判断がブレにくくなります。
「通訳・翻訳サポートがある場合」と「無い場合」
日本語サポート体制の有無も、評価バランスに大きく関わります。
たとえば、社内に通訳担当者やバイリンガルエンジニアがいる場合、初期段階では日本語力がやや低くても、十分に戦力化が可能です。
この場合は、「技術スキル重視+成長意欲重視」で採用を進めるのが合理的です。
一方、通訳サポートがない現場では、日々の業務報告・タスク管理・仕様変更のやり取りなど、ほぼすべてが日本語で進みます。
このような環境では、「中級以上の日本語力+最低限の技術基礎」がバランスの取れたラインになります。
つまり、評価の優先度は
“個人の能力”よりも“社内のサポート環境”によって決まる。
という視点が欠かせません。
配属後を見据えた“伸びしろ評価”の考え方
採用面接では、「今の能力」だけでなく、「どれだけ伸びるか」を見ることも大切です。
特に海外人材の場合、日本語や社内文化への適応は数か月〜1年単位で大きく伸びることがあります。
そのため、人事・現場が見るべきは、
- 「質問を受けたときに、理解しようとする姿勢があるか」
- 「誤解が生じたときに、確認・修正できる柔軟さがあるか」
- 「技術的なフィードバックを素直に受け止め、改善できるか」
といった“行動面”です。
これらの姿勢がある人は、日本語力が多少低くても、早期にキャッチアップしていく傾向があります。
一方で、スキルは高くても自己完結型のタイプは、文化やチーム習慣になじめず離職するケースも少なくありません。
したがって、「即戦力」ではなく「成長力」という評価軸を加えることで、長期的な定着につながります。
バランスを可視化する「評価シート」活用例
評価バランスを組織的に保つためには、面接官全員が同じ評価基準を持つことが不可欠です。
そのために有効なのが、「日本語力×技術スキル」をクロスさせた評価マトリクスシートです。
例:
| 評価項目 | 日本語力(理解・発話・応答) | 技術スキル(基礎〜応用) | コメント欄 |
|---|---|---|---|
| 候補者A | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | 日本語理解が高く、報連相が丁寧。技術面は育成余地あり。 |
| 候補者B | ★★☆☆☆ | ★★★★★ | 高スキルだが会話に間が多く、指示確認に注意。 |
このように“見える化”することで、
- 「どちらを重視して採用するか」
- 「入社後のサポート方針」
を明確にできます。
さらに、定性的な印象だけでなく、★評価+コメントの併用にすることで、面接官ごとの主観を和らげられます。
面接を属人的にしないための仕組み化

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- 評価シートテンプレートを全面活用
- 現場・人事・経営で“共通言語”を持つ
- 外国籍社員を交えたフィードバック面談の設計
- 面接後30分以内の「印象メモ」をルール化
外国人エンジニア採用で成果を安定させるためには、「誰が面接しても同じ基準で判断できる仕組み化」が欠かせません。
面接官の感覚や経験に頼った属人的な評価を続けていると、採用の質にばらつきが生じ、ミスマッチを招く原因になります。
この章では、評価の一貫性を保ち、面接プロセスを組織的に運用するための具体的な仕組みづくりについて説明していきます。
評価シートテンプレートを全面活用
面接を担当する人によって評価が大きく変わる──これは中小企業ではよくある課題です。
「話しやすかったから好印象」「技術的に詳しいから即採用」など、感覚的な判断が混じると、採用基準がぶれてしまいます。
その防止策として効果的なのが、評価シートの標準化です。
面接官が自由記述で印象を書くだけでなく、項目を明確に分けてチェックできる形式にすることで、評価の一貫性が保たれます。
たとえば、以下のようなシートを用いると判断の軸が揃います。
| 評価観点 | 内容 | 評価(1〜5) | コメント |
|---|---|---|---|
| 日本語理解力 | 質問内容を正確に理解し、要点を捉えて回答できる | ★★★★☆ | 質問の意図をすぐに理解し、言い換えて確認していた |
| 技術説明力 | 自身の開発経験や設計意図を日本語で説明できる | ★★★☆☆ | コード意図は明確だが、専門用語が多く説明に時間がかかった |
| 成長意欲 | 改善点や学びを素直に受け止められる姿勢 | ★★★★★ | 新しい技術を自主的に学んでいるエピソードあり |
こうしたテンプレートを全員で使うことで、「印象」ではなく「行動」に基づいた評価が可能になります。
現場・人事・経営で“共通言語”を持つ
外国人エンジニア採用では、面接官のバックグラウンドが異なることで評価軸が分かれがちです。
現場→「技術力を優先したい」
人事→「コミュニケーション重視でいきたい」
経営→「早期に戦力化できるかを見たい」
それぞれの意見がバラバラだと、最終判断が遅れたり、内定後のフォローがちぐはぐになったりします。
そのために必要なのは、「評価基準を共通言語化する」ことです。
たとえば、
- 「N2レベル相当」とはどの程度の業務ができる状態か
- 「即戦力」とは、何をもってそう呼ぶのか
- 「チーム適応力」をどう定義するか
を明文化し、社内で共有しておくことが重要です。
面接官向けのトレーニング資料や評価マニュアルを簡易的に作るだけでも、採用の精度は格段に上がります。
外国籍社員を交えたフィードバック面談の設計
採用プロセスを改善する上で有効なのが、既存の外国籍社員からのフィードバックです。
実際に入社して感じたギャップや、日本語・技術評価で見落とされがちな点をヒアリングすることで、評価項目の精度を高めることができます。
たとえば、
「面接では話せたけど、実務での日本語スピードについていけなかった」
「評価シートの項目に“確認力”があった方がよい」
といった現場の声が挙がれば、すぐに改善ポイントが見えてきます。
外国籍社員を面接プロセスの一部(同席・後半10分のクロストークなど)に加えることで、候補者も安心し、“現場文化との相性”を自然に見極めることもできます。
面接後30分以内の「印象メモ」をルール化
最後に、面接後の記録をどう残すかです。
「あとでまとめよう」と思って放置すると、時間が経つにつれ印象が薄れ、曖昧な評価になります。
その防止策としておすすめなのが、“30分以内ルール”。
面接終了後30分以内に、
- 気づいたポイント
- 印象に残った発言
- 評価シートのコメント欄
を簡潔に入力するルールを設けます。
この時間制限を設けることで、感覚に頼らない“即時的な客観評価”が可能になります。
また、全員のメモを共有ドライブなどで一元管理すれば、「どの面接官がどんな視点で見ているか」も可視化され、面接スキルの平準化にもつながります。
これらの仕組みを整えることで、面接の精度は大幅に向上します。
「誰が担当しても同じ基準で判断できる」体制が整えば、採用リスクを減らすだけでなく、外国人エンジニアが安心して入社できる環境づくりにも直結します。
まとめ:両輪で見てこそ、真の適性が見える

外国人エンジニア採用で大切なのは、
日本語力と技術スキルを別々ではなく掛け合わせて評価することです。
JLPTの点数やテスト結果だけでは見えない
「伝える力」や「実務対応力」
を、対話や行動の中から丁寧に見極める。
その仕組みを整えることが、採用後の定着と活躍につながります。
面接の精度は、個人の勘ではなく仕組みで高める時代です。
両輪で見る採用設計が、次の一手を確実に変えていきます。


