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給与・オファーの相場感|職種別レンジと海外人材に刺さる条件提示

2025年10月20日 公開
海外人材の採用が一般化するなかで、「提示条件の設計力」が採用成否を分ける時代になっています。
とりわけ給与レンジやオファー内容は、候補者の最終判断に直結する重要な要素です。
一方で、多くの企業では「どの職種で、どの程度が適正か」を把握できていないのが現状です。
国内相場だけを基準にすると、グローバル水準とのギャップが生じ、“給与以外の条件設計”を軽視してしまうケースも少なくありません。
本記事では、国内外の公開データをもとに職種別の給与レンジを整理し、海外人材が実際に魅力を感じるオファー設計の要点を解説します。
“給与”という数字の裏にある、「納得感」や「安心感」をどう提示するか。
採用競争を勝ち抜くための実践的なヒントを、具体的なデータとともにお届けします。
目次
なぜ「給与」+「オファー設計」が海外人材採用で重要なのか

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- 優秀な人材ほど“オファー段階”で離脱する理由
- 採用競争の主戦場は“給与水準”だけではない
海外人材の採用で失敗しがちなポイントのひとつが「オファー設計」です。
提示条件の内容や伝え方次第で、内定辞退につながるケースも珍しくありません。
この章では、給与・オファー設計がなぜ採用の成否を分けるのか、そして“給与以外の魅力”をどう設計すべきかについて説明していきます。
優秀な人材ほど“オファー段階”で離脱する理由
日本企業では、給与レンジを明示しない求人や、提示後の交渉余地がほとんどないケースが多く見られます。
しかし、海外の候補者は成果主義やスキル評価の文化に慣れており、オファー内容に透明性がない場合、「この会社は自分の価値を理解していない」と感じてしまう傾向があります。
実際、採用支援サービス TokyoDev の調査では、給与交渉ができない企業は候補者から敬遠されやすいという結果が出ています。
また、提示条件の中に「昇給の仕組み」「評価サイクル」「生活支援の有無」が含まれていない場合も、辞退理由の上位に挙がります。
つまり、オファー内容に「透明性と交渉の余地」を持たせることが、採用成功率を高めるうえで重要です。
給与額だけでなく、候補者が“納得できる説明”を提示できるようにしましょう。
採用競争の主戦場は“給与水準”だけではない
もちろん給与の金額は重要です。
しかし、優秀な海外人材ほど重視するのは「成長できる環境」や「安心して働けるサポート体制」です。
リモート勤務・在留資格サポート・技術研修・キャリアパスの明示など、“給与以外の条件”の充実度が採用競争を左右する時代に入っています。
とくに、グローバル採用では給与水準だけで勝負しようとすると、アメリカやシンガポールなど高賃金市場に対して常に不利になります。
だからこそ、企業側は「給与+α」で総合的な魅力を提示できるかどうかが重要です。
職種別に見る給与レンジと相場感(国内+グローバル比較)

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- 国内における職種別・経験別の給与レンジ(目安)
- グローバル基準との比較で見る日本の位置づけ
- オファー設計に活かす“レンジ感”の使い方
海外人材を採用するうえで、「いくら提示すれば妥当か」を判断することは非常に重要です。
給与相場を知らないままオファーを出すと、優秀な候補者に“市場感のない企業”と見なされてしまうことも。
この章では、国内外の給与レンジを比較しながら、実務でどう活かすべきかについて説明していきます。
国内における職種別・経験別の給与レンジ(目安)
日本国内のITエンジニア給与レンジは、経験年数やスキルセットに応じて明確な差があります。
国内企業の給与体系は職能や役職よりも「経験値」「技術スタック」「プロジェクト規模」に強く影響されるため、同じ職種でも実務スキル次第でレンジが大きく変動します。
また、東京圏では地方よりも平均年収が10〜20%高く、リモートワーク可能な企業ほど上限が上がる傾向にあります。
以下は、複数の公開データ(TokyoDev、G Talent、Resociaなど)をもとにした職種別の平均レンジです。
| 職種 | 経験3年未満 | 経験3〜5年 | 経験5年以上 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| フロントエンドエンジニア | 350〜480万円 | 500〜650万円 | 700〜850万円 | React/Vue.js経験者は上限高め |
| バックエンドエンジニア | 400〜550万円 | 600〜750万円 | 800〜950万円 | Java・Go・Python経験者に人気集中 |
| QA/テストエンジニア | 300〜450万円 | 450〜600万円 | 600〜750万円 | 自動化スキル保有で+50万円前後 |
| インフラ/DevOps | 400〜600万円 | 600〜800万円 | 850〜1000万円 | AWS資格者は評価が高い傾向 |
| PM/Tech Lead | 600〜800万円 | 800〜1000万円 | 1000〜1300万円 | 英語主導PJ経験で上限超も |
| データサイエンティスト | 500〜700万円 | 700〜900万円 | 900〜1200万円 | 外資出身は1000万円以上が主流 |
このレンジを基準にオファー額を検討することで、「過大評価でも過小評価でもない」バランスの取れた条件提示が可能になります。
グローバル基準との比較で見る日本の位置づけ
グローバル水準と比較すると、日本のIT人材給与は依然として約40〜60%低い水準にあります。
これは、日本では年功序列や内部評価重視の文化が根強く、成果主義やジョブ型報酬が定着していないことが原因です。
また、為替変動によりドル換算ベースでは差がさらに拡大しており、「国際的に見て安く見える」構造が続いています。
たとえば、米国シリコンバレーのソフトウェアエンジニアの平均年収は約1,200〜1,500万円(USD 80K〜100K)。
同等スキルの人材を日本で採用する場合、提示可能な水準は600〜800万円程度が一般的です。
Resocia社の「Global IT Report 2024」でも、日本のエンジニア給与は米国の約48%にとどまると報告されています。
この差を埋めることは容易ではありません。
だからこそ、日本のIT企業は給与以外の要素(働く環境・制度・キャリア支援)で補完する戦略が求められているのです。
オファー設計に活かす“レンジ感”の使い方
給与レンジの数値は「情報」ではなく、「戦略ツール」として活用すべきです。
採用交渉において、提示額の根拠が明確であることは候補者の安心感につながります。
一方で、「なんとなく」で決めた金額は、企業側の信頼を損ねるだけでなく、入社後の不満や離職にも直結します。
たとえば、
同業他社の平均レンジをベースにしつつ、候補者の経験・成果・ポテンシャルを加味して提示額を算出する。
そのうえで、
「この金額は市場と比べても正当な評価である」
と根拠を持って説明できる企業は、候補者から“誠実な会社”と評価されやすくなります。
給与レンジの理解は「金額交渉のため」ではなく、信頼を構築するためのデータです。
市場を理解し、自社の立ち位置を明確にしたうえでオファーを提示することが、最も効果的な採用ブランディングにつながります。
海外人材に“刺さる”オファー条件の設計ポイント

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- 「給与以外の安心感」を重視する
- 「成長と挑戦の場」を明確にする
- 「評価・昇給プロセス」を明確に伝える
給与額の多寡だけでは、優秀な海外人材を惹きつけることはできません。
近年の採用トレンドを見ると、「給与」は転職理由の上位ではあるものの、最終的な意思決定においては“安心感・成長機会・透明性”といった給与以外の要素が決め手になるケースが増えています。
ここでは、海外人材に刺さる3つのオファー設計の軸を解説します。
1. 「給与以外の安心感」を重視する
海外から日本に移住・就業する候補者にとって、「給与の多寡」よりも大きいのが生活基盤への不安です。
採用時に次のようなサポートを具体的に示すと、オファーの魅力度が大きく変わります。
ビザ取得・更新支援
在留資格の申請代行、家族帯同サポートを含めると信頼度が高い。
住居・引越しサポート
初期費用や保証人の代行など、海外人材にとって最も不安な部分をカバー。
オンボーディング支援
入社初期に文化・業務面のギャップを埋めるメンター制度を設ける。
これらはコスト負担が大きいように見えますが、採用後の早期離職リスクを減らすという意味で、長期的には十分な投資価値があります。
2. 「成長と挑戦の場」を明確にする
海外人材の多くは、「今より良い待遇」よりも「次のキャリアステップ」を重視します。
たとえば
「グローバルプロジェクトへの参画」
「英語での開発体制」
「新技術へのチャレンジ」
など、キャリアの伸びしろを可視化できる環境を提示することで、オファーの魅力は格段に上がります。
また、社内での昇格ルートや評価制度を明確に説明することで、候補者に「ここでキャリアを築ける」という安心感を与えられます。
これは給与交渉よりも“誠実なコミュニケーション”として好印象を持たれやすいポイントです。
3. 「評価・昇給プロセス」を明確に伝える
海外人材の多くは、「成果に対してどのように報われるか」を非常に重視します。
そのため、面接段階から
- 昇給・評価のタイミング(例:年1回または半期ごと)
- 成果をどう測るか(例:KPI・技術的達成度・プロジェクト貢献)
- 評価結果が給与・昇進にどのように反映されるか
といった情報を提示できるかどうかが決定打になります。
特に成果主義の文化を持つ国の候補者にとっては、「昇給基準が曖昧な組織」は不安要因になります。
逆に言えば、評価の透明性を提示できる企業は、それだけで信頼を得やすいのです。
オファー設計を成功させるための実務ステップ

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- Step1. 相場データを定期的にリサーチする
- Step2. 条件提示は「総報酬(Total Compensation)」で考える
- Step3. 面接段階で「期待値のすり合わせ」を行う
オファー設計とは、単に給与額を決める作業ではありません。
それは、企業と候補者の間に「信頼」と「納得感」を築くための戦略的プロセスです。
提示する金額・福利厚生・評価制度・働き方の一つひとつが、候補者の意思決定を左右します。
特に海外人材の採用では、金額だけでなく“文化的・心理的な安心感”を含めて設計できているかどうかが、採用成功の分かれ道になります。
だからこそ、人事担当者には「感覚」ではなく、「根拠」と「再現性」をもって判断できる仕組みづくりが欠かせません。
そのために押さえるべきは、次の3ステップ。
①相場データの把握 → ②総報酬での提示設計 → ③期待値のすり合わせ。
この章では、オファー設計を“仕組み”として成功させるための3つの実践ステップを、データと具体例を交えて解説します。
Step1. 相場データを定期的にリサーチする
信頼性の高いオファーを設計するには、最新の給与相場データを定期的に更新・活用することが不可欠です。
IT業界の給与水準は年々変化しており、特にエンジニア職は技術トレンドや為替レートの影響を強く受けます。
古い基準を使ってしまうと、採用競争で不利になるだけでなく、「市場を理解していない企業」と見なされるリスクも生まれます。
信頼できる給与情報としては、以下のようなデータソースが参考になります。
- TokyoDev Salary Survey:在日外国人エンジニアの実データ
- G Talent Salary Guide:職種別レンジを日英両対応で比較可能
- LinkedIn Salary Insights/Glassdoor:リアルタイムで国際比較が可能
- Resocia Global IT Report:国別比較・為替換算を含む包括的レポート
これらを四半期ごとにチェックし、経営層や採用チームと共有することで、条件提示に一貫性と説得力が生まれます。
市場データを定点観測する仕組みを持つ企業こそ、長期的に信頼される採用活動を実現できます。
感覚ではなく、データに基づくオファー提示が“誠実な企業姿勢”を形にするのです。
Step2. 条件提示は「総報酬(Total Compensation)」で考える
オファー条件は、給与額単体ではなく「総報酬(トータルコンペンセーション)」として提示するのが効果的です。
海外人材は、年収総額よりも「自分の努力がどう報われるのか」という“報酬の内訳”や“成長への支援”を重視する傾向があります。
金額だけを提示しても、「将来的にどう伸びるのか」「どんなサポートがあるのか」が見えないと、納得感を得にくいのです。
総報酬の設計では、次のような項目を整理して提示しましょう。
- 基本給
- 各種手当(住宅・通勤・家族)
- 昇給・賞与制度
- 福利厚生(保険、リモート手当、教育補助など)
- 成果に応じたインセンティブ
- 学習支援・技術カンファレンス参加費
これらを図や一覧で可視化すると、候補者が「全体としての価値」を直感的に理解できます。
見えない報酬を見える形にすることが、候補者に安心と信頼を与えます。
「あなたの成長を企業として支える」というメッセージを伝えることが、採用成功への近道です。
Step3. 面接段階で「期待値のすり合わせ」を行う
オファー交渉をスムーズに進めるには、面接の早い段階で条件面の期待値をすり合わせておくことが重要です。
条件を後出しにすると、最終段階で齟齬が生まれやすく、内定辞退のリスクが高まります。
逆に、初期段階で前提を共有できていれば、交渉の透明性と信頼度が一気に上がります。
具体的には、以下の3点をヒアリング・共有しておきましょう。
- 希望給与・希望通貨(円/ドル換算)
- 希望する働き方(リモート・出社・フレックスなど)
- 生活・在留に関するサポートニーズ
これにより、最終オファー段階でのギャップを最小化し、候補者との関係をより良い形で構築できます。
「一方的に条件を提示する」のではなく、「相互理解を深めながら一緒に最適解を探る」。
その姿勢こそが、採用の信頼を育て、長期的な定着へとつながります。
まとめ|給与+αの「誠実なオファー」が最強の採用戦略
海外人材の採用では、「給与が安いから来ない」という単純な話ではありません。
実際には、提示条件の整合性・透明性・誠実さこそが、最終的な意思決定に影響しています。
給与レンジを理解したうえで、
- どのような根拠でその金額を提示しているのか
- どんな環境で、どんな支援を受けながら働けるのか
- 成果をどう評価し、どう還元するのか
これらを一貫して説明できる企業は、金額以上に信頼で選ばれるようになります。
給与とは、単なる数字ではなく、候補者への「メッセージ」です。
その金額の裏にある意図と誠意が伝わるほど、採用は成功し、定着も進みます。
採用競争が激化する今こそ、
“給与+αの魅力”を設計し、誠実なコミュニケーションで候補者と向き合うこと。
それが、これからの日本企業に求められる最強の採用戦略です。


